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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)8821号 判決 1958年5月10日

第一銀行ほか

事実

原告は、昭和二十八年十一月二十四日東京地裁において破産宣告を受けた訴外株式会社三晃堂の破産管財人であるが、訴外三晃堂はその振出にかかる本件各約束手形につき満期日に支払を拒絶した後、満期後間もなく被告に対してその手形金の支払をした。ところで訴外三晃堂は、昭和二十八年五月二十八日以降一般的に約束手形の支払を拒絶し、同年六月二十日にはその振出にかかる約束手形の支払担当者である株式会社三和銀行から当座取引を解約され、同月二十五日手形取引停止処分を受けたものであるから、前記の各手形金支払は、自己の支払停止を知りながらこれをなしたものというべきである。よつて原告は、訴外三晃堂の破産管財人として破産会社の前記各支払を否認し、且つ支払金合計百七十一万四千五百九十四円及びこれに対する完済までの遅延損害金の支払を求めると主張した。

これに対し被告東亜実業株式会社は、被告が訴外三晃堂から支払を受けた手形金は本件各手形金のうち七万五百六十円だけであつて、その余の手形金の支払を受けた者はそれぞれ株式会社第一銀行(馬喰町支店)、株式会社日本勧業銀行(横山町支店)、株式会社帝国銀行(堀留支店)である。また被告は、昭和二十八年七月十五日まで訴外三晃堂と取引を継続し、同日同訴外会社がその振出にかかる約束手形の支払を拒絶するに及んで始めて同会社の窮状を知り、取引を停止したのであつて、その前に同会社がいわゆる支払停止をしたことはなく、被告において同会社の支払停止を知つていたということはないと抗争した。

理由

証拠を綜合すれば、被告は、訴外株式会社三晃堂の振出にかかる本件各手形をそれぞれ第一銀行、日本勧業銀行、帝国銀行に取立のため各裏書交付していたが、右各手形は満期日における適法の呈示に対し何れも被告から支払を拒絶されたところ、訴外三晃堂は一旦支払拒絶をした後昭和二十八年六月四日より同年七月七日までの間に買戻と称し本件各手形金を前記のとおり取立委任を受けていた各銀行に支払つたことを認めることができる。被告は、本件各手形はそれぞれ前記各銀行において割り引いたものである旨主張しているが、かく認定する証拠はない。そして取立のため裏書された手形の被裏書人に対する手形金の弁済は、取立が明示されていると隠されているとにかかわらず、反証のないかぎり裏書人に対して有効なものと解するのを相当とするから、本件各手形金の弁済は結局において全部訴外三晃堂から被告に対してなされたものというべきである。

しかして証拠によれば、訴外三晃堂は、昭和二十八年五月二十八日限り一切の約束手形債務の支払を拒絶したため、同年六月二十日その支払担当銀行である株式会社三和銀行(三河島支店)から当座取引を解約され、同月二十五日いわゆる手形取引停止処分を受けたことを認めることができるから、訴外三晃堂は、反証のない限り、昭和二十八年五月二十八日限りその債務につき一般的に支払停止をしたものというべく、従つてまた反証のない限りそのことを知りながら被告に対し本件各手形金の支払をしたものというべきである。

原告は訴外三晃堂の支払停止につき被告もまた悪意であつたと主張し、被告はこれを争うから判断するのに、被告は前記認定のとおり本件各手形を前記各銀行を通じ満期日に支払場所に呈示したところ拒絶されたのであるが、かかる場合取立委任を受けた銀行は、取立の関係では委任者の代理人というべきであるから、銀行が支払拒絶に遭つた以上、銀行は直ちにこれによる支払停止を知つたことになり、その法律上の効力は当然委任者たる被告に及ぶものというべく、その上証拠によれば、被告は昭和二十七年秋頃以来訴外三晃堂と小麦粉売渡の取引を始めたが、訴外三晃堂は前記認定のとおり昭和二十八年五月二十八日以後本件各手形を含めて取引銀行である三和銀行三河島支店を支払場所とする一切の約束手形の支払を拒絶し、同銀行から当座取引を解約され、手形取引停止処分を受けたものであるところ、これらの事態を見越してすでに同年六月八日更めて株式会社千葉銀行(王子支店)に小林成郎という虚無人名義で当座取引口座の開設を得、先ず専務取締役斎藤伝をして被告の社員井上絢三に事情を話して了解を得させた後、同月二十日頃役員四名を被告の許に遣わし、事のここに至つた事情を説明し、今後は小林成郎名義の右当座によつて手形決済をなすべき旨申し向けて取引の継続を懇請したので、被告はこれで従前どおり小麦粉売買代金の決済が得られるものと考え、その取引を継続したことを認めることができる。してみると、被告は、反証のない限り、訴外三晃堂が前認定のとおり一般的に支払停止をしたことを知りながら本件各手形金の支払を受けたものというべく、その後なお小麦粉売買の取引を継続したとしても、それは訴外三晃堂のいうとおり取引代金の手形決済が得られるものと信じて取引をしたというに止まりそれによつて一旦支払停止を知つたことが払拭されることはない。

よつて本件各手形金の弁済を否認し、その返還として弁済金合計百七十一万四千五百九十四円及びこれに対する支払済までの利息の支払を求める原告の請求は正当であるとしてこれを認容した。

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